アトラシエの開発ブログ

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ベンチャーにとってのLTV(顧客生涯価値)

顧客生涯価値とは?

最近顧客生涯価値(Life Time Value = LTV)について考えることがあったので、その内容をまとめてみます。

LTVとは顧客一人を獲得したときにどれだけ企業にとって価値があるかを、長期に渡って考える一つの考え方です。

例えば新聞を購読する例を考えます。1ヶ月3000円の新聞に契約すると、その顧客を一人獲得するのにどれだけコストをかけてよいでしょうか。 単純に最低1ヶ月読んでくれる契約であればどんなに短くても3000円はもらえるので、3000円以内で獲得すれば良さそうです。ただ、実際には何ヶ月かは最低でも読んでくれるし、長期的に契約してもらえれば20年,30年と顧客になってくれます。それならもう少しコストをかけて新規顧客を獲得しても良さそうです。

簡単なLTVの計算方法

最もシンプルに考えれば、平均して何ヶ月購読してくれるか、1ヶ月いくらかで考えてみましょう。 平均が24ヶ月なら1ヶ月3000円で3000*24=72,000円です。このうち粗利は50%だとして36,000円になりました。

このとき、何が変動費で何が固定費かに注意します。例えば新聞を売るのには営業所があったり、印刷会社と契約したりする必要があるでしょうが、そういった管理費や研究開発費などをコストに含めずに計算します。ここでいうコストとは製造コストのことだと思ってください。

新聞のように毎月支払うビジネスモデルの場合は月ごとの継続率を使って計算すべきです。顧客の全体平均で24ヶ月というよりは、例えば1~24ヶ月の間の月ごとの解約率は3%(実際97%の24乗が50%くらいですね)、それ以降の解約率は1%とか、そういう計算方法です。

資本コスト

上の計算方法には重要な概念が抜けています。それは「24ヶ月後の3000円と今月の3000円は価値が違う」という点です。24ヶ月後の3000円は支払い時期が遅い分、今月手に入る3000円と比べて割り引く必要があります。

そこでいくら割り引くべきかという計算に資本コストという概念が用いられます。 現在x円を得るかわりに、年利rで2年貸しつけて、その支払を2年後に3000円として受け取った。と考えてみましょう。

方程式は x * (1 + r)^2 = 3000

となりますね。

従って x = 3000 / (1 + r)^2

となります。 もう少し一般化すればt年後に得られる利益pの現在価値vは、資本コストをrとしたとき

v = p / (1 + r)^t

です。

ということはtまたはrが大きくなればなるほど、現在価値は小さくなります。 t(受け取る年数)は直観的にわかりますが、rとはなんでしょうか。国にとってのrは国債利回りでしょう。 ではベンチャーにとってのrはなんでしょうか。 一つ言えるのはベンチャーにとっては1年目の1000万円は5年後ぐらいには10億円にしてほしいくらいの気持ちで運用されているという点です。なのでベンチャーが調達するお金はある意味で非常に高い利息を求められています。

rとは実はこの利息と似たようなものです。一般にベンチャーでLTVを計算するときはr=0.5くらいの非常に高い資本コストで計算します。 仮にr=0.5で計算するならば3年後に得られる10000円は、現在では2962円しか価値がありません。 これに先ほどの継続率も掛けあわせましょう。年0.8で継続してくれるのなら、この2962円を得られるのは実際には0.8*0.8*0.8=50%なので、たったの1500円です。

スタートアップにとってのLTV

以上のことを見れば、長期に渡って安定的にお金を生み出してくれる顧客も、資本コストが高い企業と低い企業で価値が異なることがわかります。スタートアップは資本コストが高いので、短期でお金を生み出しながら、ベンチャーが成熟したタイミングで長期的な支払い顧客として転換してくれるととてもうれしいわけです。

資本コストと継続率を深く考えれば考える程、スタートアップにとっては案外ニコニコ動画やクックパッドのプレミアム会員のようなモデルが意外と旨味がないという考え方ができます。

COCA (Cost Of Customer Acquisition) 顧客獲得コスト

新聞購読者のLTVが3万円だったとして、この顧客を獲得するのに3万円使っていいでしょうか。 よくありません。実際は粗利計算のコストに生産工程の管理コストなどは含まれていないからです。 だから余裕を持ってCOCAを割り出すなら、LTVの1/3が目安とされています。

すなわちこの場合は1万円までならコストをかけてよいということです。 なぜ1/3か。各業界によって異なりますが、現実的に1/2くらいに納めたいし、LTV計算は概してどこか楽観的になりがちなので、1/3という厳しい基準を引いておけば多少誤差があっても1/2くらいになる、ということらしいです。

参考

ビジネス・クリエーション! ---アイデアや技術から新しい製品・サービスを創る24ステップ

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